今回は「大手ハウスメーカーの全館空調」というテーマでお話をしていこうと思います。
なぜこのテーマを取り上げるのかというと、建物の保温性能を示す「断熱等級」が2022年に大きく変わったからです。具体的には、2022年4月に上限が等級4から5に、さらに10月には5から7へと一気に引き上げられました。

これから家づくりを考える人にとっては「へぇ、そうなんだ」くらいに感じるかもしれませんが、実は住宅業界にとっては非常に大きな出来事なのです。というのも、断熱等級は1999年の制定以来、2022年4月まで実に22年間も変わらずにきたものだからです。それがようやく改正され、業界全体が慌ただしく動いているのが現状です。
そして、断熱性能が引き上げられた以上、当然ながら他の要素も強化せざるを得ません。家は「断熱・気密・換気・空調」という順番で成り立っているため、ハウスメーカーを比較するときもこのポイントをしっかり見ることが欠かせないのです。

要するに、今の住宅業界は大きく次の3つに分かれてきているの」です。
- 断熱・気密を強化しているハウスメーカー、
- 換気・空調に力を入れているハウスメーカー
- 様子を見ているハウスメーカー
だからこそ、それぞれの現状を理解したうえで「全館空調は本当に必要なのか?」を考えることが重要です。
結論から言えば、『全館空調の必要性はハウスメーカーによる』ということです。つまり、その会社の家づくりの仕組みを理解しない限り、導入するかどうかの正しい判断はできません。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、実際にどのハウスメーカーがどのような状況なのか、そして全館空調を入れるならどこが有力なのかを知っておいた方が安心です。ここからは各ハウスメーカーごとの特徴を具体的に紹介していきますので、これから注文住宅を考えている方はぜひ参考にしてみてください。
大手ハウスメーカーの全館空調に関する状況
まずは、大手ハウスメーカーの全館空調について解説します。本サイトでは、主に以下のメーカーを対象に解説します。
- 積水ハウス
- 住友林業
- ヘーベルハウス
- ダイワハウス
- パナソニックホームズ
- 三井ホーム
- セキスイハイム
- ミサワホーム
- トヨタホーム
これらの大手ハウスメーカーを中心に、全館空調の現状や特徴をわかりやすくお伝えしていきます。

では実際に、各ハウスメーカーの現在の状況を整理してみましょう。大きく分けると3つのグループになります。
1.断熱や気密の強化に力を入れているハウスメーカー:
- 積水ハウス
- ダイワハウス
- パナソニックホームズ
- セキスイハイム
- ミサワホーム
2.換気や空調の性能を重視しているハウスメーカー:
- ヘーベルハウス
3.しばらく様子を見ているハウスメーカー:
- 住友林業
- 三井ホーム
- トヨタホーム
このように、それぞれのハウスメーカーが注力するポイントによって方向性がはっきり分かれてきているのです。

ここで整理しておきたいのが、以前から全館空調を積極的に採用してきたハウスメーカーです。それらを区別して見てみると、次のような形になります。

つまり、もともと全館空調を積極的に展開してきたハウスメーカーは、そのまま導入を検討して問題ないでしょう。
その中でも特におすすめなのが、断熱・気密性能を強化して空調効率を高めたパナソニックホームズとセキスイハイムです。この2社は全館空調を導入するなら最優先で検討する価値があります。
さらに、新しく換気・空調の仕様を大幅に強化したヘーベルハウス、そして静観しているものの光熱費削減に優れた三井ホームも、有力な候補に入れてよいハウスメーカーだと思います。

ここまでの説明だけでは少し物足りないと思うので、それぞれのハウスメーカーについて具体的に解説します。
各ハウスメーカーの全館空調:積水ハウス

積水ハウスは、断熱と気密の仕様を大きく強化しています。
具体的には、断熱性能を高めながら気密性を取りやすくした「グリーンファーストゼロ・スーペリア」、そして断熱性を確保しつつデザインとの両立を重視した「グリーンファーストゼロ・プラスアルファ」といった仕様です。

さらに、従来は重量鉄骨のβシステム構法では選べなかったスーペリア仕様が、2023年5月からは適用可能になり、断熱性能と気密性を大幅に高められるようになりました。

つまり、積水ハウスは表にはあまり出していないものの、実際には断熱・気密仕様を大幅に強化しています。その結果として、同社では個別エアコンと第1種換気を組み合わせて空気を循環させることを重視しており、直近では第1種換気の風量も引き上げられています。
ですので、積水ハウスで家を建てる際には、
- エアコンと換気をどう連動させるか
- 少ない台数で効率的に室内環境を整えるためにどこへ設置するか
を踏まえた提案を受けることが大切です。

なお、「個別エアコンと第1種換気をいかに連動させるかってどういうこと?」と思った方は、こちらの記事を見ていただければ解決すると思うので、よろしければご覧ください。
大手ハウスメーカーの全館空調:ダイワハウス

ダイワハウスは、鉄骨の商品では新しい断熱・気密仕様を出していませんが、木造では「ウルトラW断熱」という新しい仕様を導入しています。

そんなダイワハウスにも、全館空調として「パナソニック製のエアヒーリング」という商品があります。

ただ、これを入れるべきかどうかは正直微妙なところです。というのも、構造自体はパナソニックホームズの「エアロハス」とまったく同じだからです。
違いがあるとすれば見た目で、エアロハスのしっかりとした印象に比べると、エアヒーリングはどうしても中途半端な印象を受けてしまいます。

もちろん「大事なのは見た目じゃなくて性能だろ!」という意見もあると思いますが、それでもエアヒーリングには正直「うーん……」と感じる部分があり、あえて導入する必要があるのか疑問なのです。
それなら、鉄骨の場合は「エクストラV断熱」、木造の場合は「ウルトラW断熱」といったダイワハウスの最高水準の断熱仕様を選び、そこに個別エアコンと第1種換気をうまく連動させた方が、よほど賢い選択になるのではないかと思います。

大手ハウスメーカーの全館空調:パナソニックホームズ

パナソニックホームズは、2023年4月から標準で「断熱等級6」を提案するようになりました。ただし、主力のHS構法は、もともと大幅な仕様変更をしなくても等級6をクリアできるため、実際に追加されたのは玄関ドアの高断熱化といった細かな調整にとどまっています。

一方で、もう1つのシリーズ「フォルティナ」については、大幅な仕様変更が行われ、家全体で断熱材の厚みが見直される形になっています。

全館空調を強みにしているハウスメーカーだけあって、このあたりの対応はしっかりしています。
ただし、注意してほしいのは、全館空調をより効率的に使うためには必ずトリプルガラスを選ぶことです。というのも、パナソニックホームズの標準仕様であるペアガラスは、スペーサー部分がアルミになっているからです。

ただし、トリプルガラスを選べば、スペーサーを樹脂に変えることができます。
さらに2023年4月21日には、パナソニックホールディングスとパナソニックハウジングソリューションズが、樹脂サッシで有名な株式会社エクセルシャノンを連結子会社化しました。

樹脂サッシで有名なエクセルシャノンを子会社化したということは、近い将来パナソニックホームズの窓性能が大幅に強化される可能性が高いという意味です。
ただし、現時点では新しい窓はまだ発売されていないため、これから家づくりを考える方は、今ある仕様の中で工夫しておく必要があります。特にトリプルガラスは必ず採用しておくべきで、そうすることで窓の断熱性能が高まり、全館空調の効率もより良くなるはずです。
大手ハウスメーカーの全館空調:セキスイハイム

セキスイハイムは、断熱等級の改正に合わせて、壁・基礎・開口部の3つを強化し、断熱等級6をクリアできる新仕様を打ち出しています。具体的には、壁をハイグレード(HG5a)仕様にすることで、従来のグラスウール16k100mmから、より性能の高いグラスウール20k130mmへと変更できるようになりました。

次に、基礎部分です。セキスイハイムは基礎断熱工法を採用していますが、この断熱材を寒冷地仕様の「XPS2」にグレードアップすることで、さらに断熱性能を高めることができます。

「基礎断熱ってなに?」という方は、以下の記事をあわせてご覧ください。
最後に開口部です。これまで標準だったアルミ樹脂複合サッシのペアガラスではなく、樹脂サッシのトリプルガラスを採用する形になります。

セキスイハイムもこの点には積極的で、これまで鉄骨系ハウスメーカーでは防火の関係から樹脂サッシが使えないとされてきましたが、2023年4月からは防火仕様の樹脂サッシを導入しています。つまり、壁・基礎・開口部を強化すれば、セキスイハイムでも断熱等級6をクリアできるわけです。
しかも、これは私が勝手に「新・断熱仕様3点セット」と呼んでいるのではなく、セキスイハイム自身もこの3点の強化を推奨しています。ですので、もはやマストで選ぶべき仕様といって良いでしょう。
ここまで強化すれば、セキスイハイムの全館空調「快適エアリー」もさらに効果を発揮するので、個人的にはパナソニックホームズと並んで、全館空調を検討する際の有力候補だと思います。

大手ハウスメーカーの全館空調:ミサワホーム

大手ハウスメーカーの中で、ミサワホームは唯一「気密確約仕様」をオプションとして選べることが特徴です。

具体的には、30坪の住宅で気密性能を示すC値を2.0以下にするにはおよそ7万円、さらにC値1.0以下にするには20万円ほどかかるイメージです。

確かに空調効率を高める仕様にはなってきていますが、全館空調が得意なハウスメーカーかといえば正直そうではなく、実際に採用例も少ない印象です。というのも、ミサワホームの全館空調システム「パラディア」はサイズが大きくてゴツく、稼働音もそこそこ気になるからです。

さらにもう1つの全館空調システム「コモンズエア」もありますが、これはエアコンと第1種換気を連動させるタイプでありながら、実際に導入している人はほとんど見かけません。

全館空調というオプション自体はあるものの、そもそもミサワホームがあまり得意としていないのか、あるいは担当者の知識不足で十分に提案できていないのか、そのどちらかだと思います。私個人としては後者の可能性が高いと感じています。
いずれにせよ、ミサワホームは全館空調を強みにしているハウスメーカーではないということは知っておいてください。ただし、それでも導入したいのであれば、「コモンズエア」を選ぶ方が無難です。

「コモンズエア」は空調室が不要で、もう一方の全館空調「パラディア」のように稼働音が気になることもありません。ミサワホームで全館空調を検討するなら、この点も参考にしてみてください。
大手ハウスメーカーの全館空調:ヘーベルハウス

ヘーベルハウスは、最近「ロングライフ全館空調」という新しいシステムを発表しました。

このロングライフ全館空調は非常に優れていて、これからヘーベルハウスで家を建てるなら必ず選んでおきたい仕様だと思います。
詳しくは以下の記事で説明しています。
ヘーベルハウスのロングライフ全館空調で特に注目してほしいのは、オプションで「熱交換型ロングライフ・エコ換気システムHG」というデシカント換気を採用できる点です。これが大きな特徴だとお伝えしておきたいです。

なぜかというと、デシカント式の換気は給水や排水が不要で、自動的に除湿と加湿をしてくれるからです。仕組みとしては一条工務店の「さらぽか」と同じで、例えば除湿の場合は熱く湿った空気を冷却し、デシカントローターという装置に通すことで実現します。

すると、デシカントローター内部の乾燥剤が湿気を吸着し、室内には除湿された涼しい空気が送られる仕組みです。逆に加湿する場合は、冷たく乾いた外気を温めてからデシカントローターに通すことで実現します。

このとき乾燥剤に蓄えられていた水分が加わり、暖かく加湿された空気が室内に送られる仕組みです。これによって室内は一年を通して相対湿度40~60%に保たれ、カビやダニ、ノミ、ゴキブリといった発生を抑えながら、快適な住環境を実現してくれます。

このデシカント式換気システムを採用できるのは、今のところ大手ハウスメーカーではヘーベルハウスだけです。しかも、費用面でも「各居室エアコン+床暖房」を導入するより安く済むケースが多いため、選ばないと損だといえるレベルのオプションです。ですので、熱交換型ロングライフ・エコ換気システムHGはぜひ導入を検討してください。
加えて、全館空調のリリースに合わせて気密性も向上しているので、従来のヘーベルハウスとは違った性能を期待でき、十分に選ぶ価値があると思います。
大手ハウスメーカーの全館空調:住友林業

住友林業は、正直なところ全館空調が得意とはいえません。一応、「エアドリームハイブリッド」という全館空調がありますが、毎年のメンテナンス費用が5万円ほどかかるのが実情です。

それなら積水ハウスと同じように、第1種換気と個別エアコンを組み合わせて空気を循環させる方が賢い選択かもしれません。
ただし、大きな違いは住友林業には断熱オプションの選択肢がほとんどないという弱点があることです。そのため、日射取得や日射遮蔽をうまく設計に取り入れ、さらに空調効率を高める工夫で差別化していく必要があると思います
もしこの記事を見ている住友林業のお偉いさんがいたら、一刻も早く新しい仕様を出してほしいです。
大手ハウスメーカーの全館空調:三井ホーム

三井ホームの全館空調は、対応面積の拡大や屋外フードの形状変更といった細かな改良はあるものの、全体として大きな変更はありません。

そもそも三井ホームの全館空調には、大きく分けて3種類があります。
- スマートブリーズ・プラス:全館空調の設置場所が床置きのみの東芝製の加湿器付全館空調
- スマートブリーズ・エース:全館空調の設置場所を床置きか小屋裏どちらかを選べるデンソーエース製の加湿器付全館空調
- スマートブリーズ・ワン:45坪以下の家のみ導入可能で、コスパは良いが加湿器機能のない全館空調

さらに、これらの全館空調は「未来発電」という太陽光発電を無料で組み合わせることができ、現時点でも光熱費を大きく抑えられる仕様になっています。

そのため、特に大きな変更を加える必要はなく、三井ホームが今は静観しているのも納得できる話です。全館空調を考えている方は、三井ホームも候補に入れてみてください。
大手ハウスメーカーの全館空調:トヨタホーム

トヨタホームは全館空調を積極的に推していますが、他のハウスメーカーと比べると断熱材が圧倒的に薄いのが弱点です。

断熱材が薄いということは、それだけ建物の保温力が弱いということです。 加えて、トヨタホームは鉄骨住宅のため、しっかり対策をしない限り気密性能も高くはならないのが現状です。

そうした点を踏まえると、トヨタホームは全館空調という観点ではあまりおすすめしにくいハウスメーカーだと感じます。
とはいえ、もちろんトヨタホームには独自の魅力もありますから、全館空調以外の部分に惹かれるのであれば選ぶのも一つの方法です。ただし、全館空調を重視する場合には注意が必要です。
まとめ
大手ハウスメーカーの全館空調の特徴について解説しました。まとめると、全館空調が必要かどうかはハウスメーカーによって変わります。

そのうえで私がおすすめするのは、次のとおりです。
鉄骨の場合:
- パナソニックホームズ
- セキスイハイム
- ヘーベルハウス
木造の場合:
- 三井ホーム

ただし、以前の記事でも触れたように、全館空調は仕組みを理解すれば“もどき”をつくることも可能です。
つまり、専用の設備を導入しなくても家全体の空気を循環させる方法はあります。全館空調の導入だけが唯一の正解ではないので、工夫次第で十分に対応できるということも覚えておいてください。
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